ラージフォーマットに手を出した話

何から書けばいいですかね。表題に至る経緯を全て書こうとすると長くなりそうですが、頑張って書いてみようと思います。

私は今年の3月にラージフォーマットに手を出してしまいました。写真という趣味の機材沼。この沼に嵌ったひとには、どれだけ大枚をはたいても写し取りたい情景があるんだろうなと思います。

ちなみにラージフォーマットとはイメージセンサーの大きさが44mm×33mmあるデジタルカメラの一形式で、よく比較の対象となる35mmフルサイズは36mm×24mmです。イメージセンサーを面積で比較すると1.7倍ありますので本体もレンズも大きく、重くなります。しかも高価です。

左:ラージフォーマット/右:35mmフルサイズ

私は大好きな場所や大切な人をそのまま写しとめたいというプリミティブな願望こそ写真という趣味の原動力だと思いますが、趣味が嵩じると時々とんでもないことになりますね。貴方もそうであるように、私も一定の拘りは持っています。

写真好きはどうして沼に嵌るのか。それは結局、手持ちの機材が目前の情景を見たとおりに再現してくれない事への苛立ちだと思うんです。
私も貴方もいつもこんな仮説を立てますよね。自分の知見を総動員しても問題が解決できないのは、機材が悪いからだ。ゴルフが道具に依存するように、写真も機材に依存する筈だと。

ぼくのかんがえたさいきょうのなにか。その仮説がいつも正しいのなら苦労はしません。ところが、現場ではいつも問題が持ち上がり、収束する気配すらありません。

いま現に発生している不具合が納得感のある理由を伴っているなら仕方ないと諦めもつきます。もし、後付で対策が可能なら現地では気にせずに撮影を続行すればいいだけの話ですが、どういう訳なのか失敗作例という名の宿題が増えていくだけなのです。本当にどうしてなのでしょうか。

ここでひとつ例示しますと、私が過去にJRの宮島連絡船の船上から厳島神社の鳥居を撮影した画像は、カメラの吐き出したほとんど全ての画像が眠いのです。

(注:宮島口から宮島に渡航する場合、厳島神社の鳥居を横切る形で運行するJRの「大鳥居便」に乗船することをお勧めします。運行時間は9:10〜16:10です)


Nikon1 V1+1Nikkor VR 30-110mm f/3.8-5.6(撮って出し)

絵が眠い理由は分かりません。この絵は1/2EV程度の露出オーバーコントラストもユルユルです。厳島神社のすぐ背後には弥山が聳えていますので、大鳥居を望遠で狙った場合、太陽が直接写り込む構図にもなりません。つまり完全逆光という訳でもないのに、どうしてこんな仕上がりになるのでしょうか。

完全逆光だからコントラストが低下したと言うのならこの話はそれで終わりです。理由が判らないからこそ「いや待てよ、撮影の方角は南東だから人間が気づかない程度には光線状態が悪化しているのか?だとしたら最も撮影に適した時間帯はいつなんだ」などと止めどない自問自答が続く訳です。

撮影に際しては船の進行方向右側に陣取り、大鳥居と本殿が一直線に重なるタイミングを狙う訳なのですが、撮影のチャンスはどう足掻いても約1秒。その間に出来るのはひたすら連写する事だけです。

この事象はニコン1だけの問題ではなく、同じ絵をニコンD5で撮ってもD800で撮っても同様の傾向がありましたから率直に言って「まーたーかーよー」という気持ちしかありませんでした。コントラストの低下した絵は後付で現像を頑張ればそれなりにサルベージは出来るので、この事例は許容範囲内だと割り切るほうが幸せになれるよとニコン様は仰るのでしょうか。

そう言えば。ニコンは実写データをデータベース化していて、撮影時にパターン照合して露出の精度を上げているらしいですね。この絵は画面の下半分が空のように明るく見えますから、ひょっとするとカメラをひっくり返して持つといいのかも…そんな訳はないか。

広島はあまりに遠いので検証はまた別の機会に譲ります。このケースは機材論の範疇ではなくて、露出補正と現像頑張りなさいという話でケリをつけるしかないですね。だって理由が判らないんだから。

Nikon1 V1+1Nikkor VR 30-110mm f/3.8-5.6(現像後)

NikonD800+AF-S NIKKOR 70-200mm f/4G ED VR (撮って出し) こちらは露出には問題が無いのでVividで現像すれば使えるレベルです。ニコンはカメラの吐き出す絵の精度があまりに低くRAWで撮影するしかありません。尤も、後付でサルベージできるのなら問題はないとも言えますが。

厳島神社の大鳥居に限らず東京駅丸の内駅舎でも何でもそうですが、建造物はそれを最も良く現す構図、要は真正面からのショットは必ず押さえたい訳です。主要被写体を裏側から撮っても意味はありませんからね。使用するレンズの画角等、何らかの理由によりそれが難しければ仕方なく方角を少しだけずらしもしますが、光線状態を考慮して撮影の時間をシミュレートしても結果が伴わないという事象が発現してしまうことがあるのです。かつ現像で解決できないとなると手の打ちようがありません。

目の前の光景が愚にもつかないような形で再現されてしまうのは本当にショックが大きいです。これをやられると本当に困惑します。メーカー純正の現像ソフトで解決出来るのならそれは撮影時の設定の問題だとも言えるのですが、RAWで撮影したファイルが何をやってもサルベージ出来ないという事態に遭遇したら、誰だって「無いわー!」と思うでしょう。どうして見たままの風景を写し止めることが出来ないんだという心情は怒りに近いものであって、お前はスマホにも負けるのかと捨て台詞のひとつも吐きたくなります。

ニコンはまともな絵を一発で吐き出すことは絶対無いから現像必須だというのは、自分の中の了解事項でした。しかし、遂にニコンZ6の吐き出したモノクロ紛いの屑画像に激昂し、私はソニーに機材を一式入れ替えしました。

メカ屋のニコンと違ってデバイス屋のソニーは「明らかな失敗画像」をほとんど吐き出しません。その点は高く評価していますし機材を入れ替えた事に関して後悔は一切ありません。とても良かったと思っています。理由は、明らかに写真の歩留まりが向上したからです。

現在3台使っているソニーαは、それぞれのスペック上の長所だけに着目して購入しました。私は意志を以ってニコンからソニーに切り替えした立場ですが、ソニーにはまずベースとなる絵作りの方向性のようなものがあって、その上にデバイスで規定される性能が実装されているような感覚があります。

ソニー機の吐き出す画像が大外しをしないのは、最終形としての画像品質はハード側がきちんと担保するべきだという思想性の反映だと思いますが、ソニーはテレビ屋ですから社内的にはメカ屋とエレキ屋の発言力が拮抗しているのでしょうね。社内に製品を構成するためのシーズが全部あることがソニーの強みだとすると、使ったことは無いので断言は出来ませんが、同じくテレビ屋で、画像エンジンを内製できるパナソニックソニー同様に安定感のある絵を吐き出すんだろうなと思います。ニコンが一発で完成度の高い、後処理に手の掛からない画像を吐き出してくれさえすれば事情は違った筈ですから、その点はちょっと惜しかったですね。

ニコンには本当に長い間お世話になりました。

さて。ここで少し寄り道してソニーの絵作りについて言及しますと、私はα7R4の絵とα1の絵には若干の相違を感じます。α1は生成される絵の合格率が抜群に高く、機材に対する信頼感も極めて高いことから、終日撮影する際に一台だけ持ち出すのなら、私はα1を選択します。

Sony α7R4+SEL24105G(撮って出し) ハマれば一発でこの通りなので侮れません。

一方で、昼間の順光下で静物だけを撮影するのなら、α7R4の破壊力は抜群と言ってもいいです。

α1は動体追尾と連写に着目して購入したカメラでしたから実際のところ、絵作りにはあまり期待していなかったのです。ところが使ってみたら充分ありでびっくりしました。

Sony α1+SEL1635GM(撮って出し) 空の青をきちん再現しているのが好みです。シャドー部を少し持ち上げたら即現像完了ですね。

それ以降、デジタルカメラは画素数や常用ISO感度といったスペック値では測れない世界なんだなと思うようになりました。世の中には好事家というものが一定数存在し、異なる機材の性能を指標化し優劣を競わせようという奇特な方がいます。大変申し訳ないんですが私にはアホかいなという所感しか無いですし、一切参考にすることはありません。
機材にはバランス重視の機材もあれば、尖りまくった機材もあります。新しい製品が今足りていない機能を埋めてくれるんじゃないかと思ったら買えばいいし、買って駄目なら売却すればいい。とりあえず使ってみたいというのであればレンタルという手もあります。

私が一台のカメラで全ての撮影に対応することは出来ないと思うのは、フィルムカメラが主流の時代には、撮影意図に応じてフィルムを違うものに変えていたのと同じ事で、デジタルカメラについては撮影意図に応じてスペックの異なる複数台のボディをその都度使い分けざるを得ませんね。私はニコンをブン投げて以降、手広く機材を使い分ける方向に舵を切りました。

役割分担を考えて複数台のボディを持つという割り切りをした場合、それなりに金は掛かりますが仕方ないですよね。好きでやっていることですから。

さて。
私はα1を購入してからα7R4を持ち出す機会はめっきり減りました。ですがα1と言えども万能ではないという事は強調しておきます。最大の弱点は夜間の撮影では何だかんだ言って絵が甘くなることで、連写速度も極端に落ちます。

私はα1で撮影した画像をノートリミングで使う場合、ISO設定値をどのくらいまで上げられるのかについて試行錯誤したのですが、個人の主観としてはISO6400くらいまでだと思います。ソニーはα1の常用ISO感度を32000としていますが、メーカー公表値としてはちょっと自分に甘い気がしますね。

そんな訳で、夕方から夜にかけて撮影を続行する時などは本当にイライラします。泣きの一段とでも言うか、シャッタースピードを詰めてでも動体ブレ覚悟で何とかISO10000以下に押さえたいという状況になると、焦りに似た感情が撮影中に押し寄せてくるからです。

もちろん写りますよ。見掛け上はちゃんとね。
写るんですけどそこをもう一寸何とかしてくれませんかねと思う訳です。尤も、今や写真の共有の大部分はスマホで行われる訳ですから、ひとには言わなきゃ分かりゃしませんが。

それでもパソコンの4Kモニターで100%表示するとノイズは盛大に乗ってるわディティールは潰れているわで、35mmフルサイズ機の画素数はどのくらいが適切なんだろうかとまた悩む訳です。

兎角ヲタクは針小棒大ですので、何とかこれを改善できないものかと考えてしまう。つまり、機材でなんとかなるのなら機材でなんとかすりゃいいじゃねえかと思う訳で、また沼にズブズブと足を突っ込んでいくことになります。

Sony α1+SEL100400GM 1/400S f/4.5 ISO20000 単焦点レンズ買ってISO稼ぐしかないなと思ったきっかけがこの写真ですね。

部分拡大。パソコンのモニターでご覧頂くか、ピンチアウトして頂くとノイズ感が判ると思いますが、私は「α7S3をお迎えするしかねえかあ」と思いました。

撮影の現場で画素数多めのノイズ多めを取るか、画素数少なめのノイズ少なめを取るかという選択を迫られた時に、あれこれ考えるのは面倒臭いですね。私は日が暮れたらα7S3+単焦点。それで駄目なら諦めるという割り切りをしています。

Sony α7S3+SEL135F18GM 1/320S f/1.8 ISO2000 α7S3は画素数が少ない分解像しませんが、尖鋭感は高いです。電車に「SDGsTRAIN」との記載がありますが、その右側に何と書いてあるのか解読できないのは仕方ないですね。

「これで駄目なら仕方ない」と自分が思う組み合わせを複数持って使い分ける。写真に関心のない人が聞いたら腰を抜かすかも知れませんが、このくらいの我儘は容認して欲しいです。私が人様に公言できる唯一の趣味ですのでね。

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そうこうしているうちに、今年も桜のシーズンがやって来ました。ニコンZ6に絶望のどん底に叩き落とされた季節の再来です。

 NikonZ6+NIKKOR Z 14-30mm F4 S(撮って出し)未だ理解不能です。どうしてこうなるの。しかも現像をいくら頑張っても絵がまともにならないのです。撮影時刻は8:56です。

先に記載した通り、激昂した私はニコンを一式処分してソニーに切り替えしました。それで一応のリベンジを果たしたつもりではあったのですが、それでもまたあれこれ考える訳です。一枚一枚の桜の花弁には解像感が欲しい。写真全体にはもっと尖鋭感が欲しい。何とか目の前の絶景を再現する方法はないんだろうかと。

Sony α1+SEL1635GM(撮って出し) 撮影時刻は7:54です。ソニーもかなり微妙ですね。朝の早い時間帯に真西を向いて撮影していますから見掛け上は順光ですが、吐き出した絵はコントラストど高めときた。いや、だからそうじゃないって…この方角は鬼門なんでしょうか。

Sony α1+SEL1635GM(現像後)もっと現像を追い込まないと駄目なんでしょうが、sRGBでカラマネしているのにはてなブログ」に画像を上げた瞬間に「何をどうやっても空の青の再現性だけが激しく変わってしまう」ので、もう諦めました。それにしても、どうしてこの構図だけ、カメラの一発撮って出しにならないんでしょうね

ニコンは0点だとしてもソニーも「優/良/可/不可」の可くらい。さしずめ50点くらいですか。撮って出しで行ける確率の高いソニーでも駄目となると、一体どうやったらこの絶景を再現出来るんでしょうね。次の春には撮影の時間帯を変えて撮影するしかないんだろうなとは思いますが、それとも最悪、現像したファイルをTiffニコンのお絵描きソフト「NX Studio」に渡して色被りを抜くか。ま、それは邪道でしょうねえ…

Sony α1+SEL1635GM(現像後)同じ時間帯にホーム側から駅舎と桜を撮影したもので、撮影の向きは北側です。この絵に関しては桜も色被りでくすんでいませんし、色再現性に問題はありません。結局、写真は撮影方向、イコール光線状態に依存する訳で、そこを突破する方法って無いんかな…

実は、最初、何とかレンズで改善できないのかと考えたんです。ソニー純正に無いのなら社外品でもいい。シグマの超弩級レンズ40mm F1.4 DG HSM なんかどうだろうと。シネレンズなので映像品質は折紙付きの筈ですからね。

結論から言うと実機を三度触りに行って散々迷ったその挙句、購入は諦めました。参考にしたフォトヨドバシの作例は素晴らしいもので買う気は満々だったのですが、ソニー機に装着した場合、余りにもフロントヘビーで取り回しが厳しそうだなと思ったのです。
(Eマウント用は1260g。ちなみにリニューアルされたSEL70200GM2でさえ1045gなのです…)

三度目のお触り会から諦めて帰ろうとしたその時に、ふと近隣のブースを眺めると。なんか実機が置いてある訳ですよ。GFX50SIIとかいうカメラが。

ひょっとしてこっちなのか…(続く)

<おまけ>

Fuji GFX50SⅡ+GF35-70mm(現像後) 撮影時刻は11:59です。

何をやっても上手くいかなきゃ「光線状態がフラットな時を狙って色再現性の高い富士を持ち出すしかない」というのが現時点の仮説です。手持ちレンズの画角の関係でニコンソニーと同じ構図では撮影できなかったのですが、階調表現はラージフォーマットの独壇場かなという気がします。

Fuji GFX50SⅡ+GF35-70mm(撮って出し) カメラが生成した絵はソニーと傾向が似ています。ところが富士はレタッチ耐性が極めて高いのです。画像に素性の良さを感じますね。

ニコンの中の人にお伺いしたいんですがね。どうしてこれくらいの色再現性が確保できないんですか?

#GFX50SII