細客がセパレートアンプに手を出した話①

誰かが言っていました。手段自体が目的化してしまう事を趣味と言うのだと。私は、こと写真に関しては「機材の蒐集も含めての趣味」だと認識しております。従い、この言説には謹んで同意する次第です。

写真機材の中でも、とりわけ広角レンズは実際に購入して使ってみないと分からない事が多いです。周辺光量落ちが酷い、いくら絞っても周辺光量落ちが解消しない。フレーム外の光源をゴーストとして拾ってしまう。歪曲を後付で補正したら想定した画角で使えない、等々。このため、このカテゴリーだけは未だに機材を取っかえ引っ換えしている始末で、収束する気配すらありません。我ながら困ったものです。

カメラ本体は、手持ちのα1も来年あたり更新が来ると思います。後継機はおそらく100万円を超えてくるでしょうね。私が買うか買わないかはさておき、必ずバカ売れすると思います。でも要らないひとには要りません。
同じように動きモノを撮らない方にはα9IIIの驚愕の高性能、グローバルシャッター&120fpsの超高速連射機能は必要ありませんね。こちらもお値段ど高めの想定価格88万円。風景やポートレートを中心に撮影されている方は「120fps?何それ。そんなもの犬にでも呉れてやれ」と思っていらっしゃる事でしょう。
また、何が何でもパンフォーカスという撮影意図がある場合は、レンズの選定で悩むよりも別のフォーマットに手を出すほうが手っ取り早い。画質には多少目を瞑ってでも、被写界深度の深い1インチフォーマットを選択することになるでしょう。

このように写真という趣味は「何をどんな風に撮りたいか」さえ決まれば機種選定は半分終わりです。必要なスペックから機材を選定し、後は財布と相談すれば良い訳ですね。要らない機能に無駄金を突っ込む理由は一切ありません。
欲しいけど費用が出せないと思ったら、豊富な中古製品から製品を選ぶと言うのもひとつの方法です。

さて。
機材の購入・商品価値の減耗という視点で見ると、趣味性が高くかつ高額商品である写真機材とオーディオ機器は、同じ特性を持っていると思います。

新品買ってテンションアゲアゲで自宅に帰っても、開封した瞬間に価値半減。製品寿命は4年程度。販売終了後に保守部品の保有期限が切れたらサヨウナラ。
幸か不幸かセカンドマーケットというものが存在し「修理不能になるのを嫌うなら値段が付くうちに売り飛ばして次を買え」ってところまで同じです。

写真機材に関しては、私は「下取り交換を活用してばんばん製品を入れ替えてしまえばいい」と考えています。イメージセンサーであれ、エンジンであれ、レンズエレメントであれ、まだまだ進化の余地がありますからね。
一方のオーディオ機器については、私はどちらかと言うと一旦音決めをしたら機材は大事に使いたい派なのですが「授業料」を払うことを躊躇わない方は沢山いらっしゃいます。
これは「どちらが正解か」という議論をしたい訳ではなくて、どちらも正解。単に「機材の購入や入れ替えに関する行動様式には類似性があると思う」という話で大事に使うもよし、頻繁に入れ替えするもよしです。

ところで。両者には明確な違いもあります。
写真機材は「スペック」に対して対価を払うものと言い切っていいと思います。しかも機材には民生用、業務用の区別がありません。ある意味で珍しい業界だと思います
写真には撮影を生業とするプロがいます。頂点に立つごく少数の写真家は尊敬の対象で、私にとって前田真三荒木経惟、操上和美、久留幸子はほとんど神です。一方でプロと呼称される人の中には「作例プロ」という謎のカテゴリーがあり、私はヒトバシラー伊達さんだけは個人的に敬愛していますが、彼等は特定メーカーの長所だけを気持ち悪いくらい持ち上げます。ですが写真機材を正しく評価し、駄目なところは駄目だと指摘する「評論家」は只のひとりもいません。

理由は簡単でメーカーに都合の悪い事を「評論」しようものなら、明日から干されて飯の食い上げになるからです。太鼓持ちの仕事もなくなれば、機材の無償貸与も無くなる。先の広角レンズが典型的な例で、誰一人としてダメ出しをした「評論家」は存在しません。故に私はメーカーの紐付き広報であるほとんどの作例プロを評価していませんし、本当に残念ですが、食うためなら人間はここまで卑しくなれるのかと断罪せざるを得ません。

ではオーディオ機器はどうか。機器の購入とはスピーカーの効率や、アンプのダンピングファクターといった「スペック」に対価を払う事ではありませんね。映画館やライブハウスを対象にしているような業務用機器は分かりませんが、そもそもCDやレコードを鳴らして飯を食っているプロはいません。
一方で、こちらは写真とは違って何故か評論家と呼ばれる人達が沢山います。はっきり言って私は口舌の徒は嫌いですし、オーディオ誌は一度も買ったことがありません。

極言してしまうと、私は、オーディオとは「好き」に対して金を払う趣味だと思います。

だから奥が深く、かつ始末が悪い訳で、他人の評判を鵜呑みにしてオーディオ機器を購入したら、只の散財になる可能性が高いです。
(※それだけは止めてください)他人の好きと自分の好きは、多くの場合違います。

言動の怪しい自称評論家に加え”値段.com”あたりには自分が選ばなかった製品をひたすらディスる方がいますね。本当に見苦しいです。
買って実際に使い込んでからここが駄目だという話をするのならともかく、使ってもいないモノをひたすら貶めて一体何が楽しいんですかね。そんなにしてまで歪んだ承認欲求を満たすより、少しくらい勉強してまともな大学にでも入り直せばいいと私は思いますが。

それとは逆に、自分の購入した機器に両手を上げてひたすらオール5を付けるのもちょっと格好悪いかなと思います。機材を自分でちゃんと使い込んでいけば、必ず改善要望事項は出てくるでしょうから。
あなたがオーディオメーカーと言う名の新興宗教に入信したのなら止めません。ですが、あなたが買ったのは例えばプリメインアンプであって、壺ではないと思いますよ。

そのどちらにも属さない人達と言うか、世の中にはどんな趣味であれ好事家というものが存在します。そこまで突き抜けたひとは自分でホームページを開設したり、X(Twitter)の専用アカウントで情報発信をされていらっしゃいます。
酸いも甘いも噛み分けた方の評論を拝見するのは本当に楽しいです。しかしながら逆立ちしても私はあの領域に到達するのは無理ですし、そもそも私にそんな財力はございません。

それでは一体何を信用するのか、ですが。

オーディオの機器選定に際しては自分の「好き」を正しく認識し、正しく言語化することだと思いますね。信じるのは自分の耳です。

その上で信頼に足りるお店の方にアテンドして頂いて、会話しながら機器を試聴して購入を決めるのが良いです。
運が良かったんでしょうね。私は最後の最後でたまたまそんなショップさんを見つけました。

別の稿で言及しますが「ジャズ、ロックはAB級アンプ」とよく言われます。ですが私は真逆の結論に達して純A級パワーアンプを購入しました。私にとっては「ジャズ、ロックはA級アンプ」という結論になったという事ですね。
繰り返しますが信じるのは自分の耳だけで良いのです。「王様の耳はロバの耳」と思って下さい。

ちなみになんですが。
私は過去に会社の選定を間違えたとしか思えない事例をいくつも経験しています。機器を長く使うつもりなら、購入する会社の選定も大切だという事は念の為言及しておきます。

私は「保守部品の保有期限が切れている」という理由でDENON DCD-3500Gの修理を門前払いされた事があります。日本コロムビアも会社が傾いた頃だったし、仕方なかったですかね…それでもトレイ閉開の不具合なんて腕のいい修理業者さんなら楽勝だと思いますし、私はそれ以降同社の製品については長く使うのではなく、期限を切って入れ替えすべきものという前提で使っています。

それでも想定している耐用年数を使い切っただけDENONはまだ良くて、YAMAHA A-2000に至っては買っていきなり絶不調。保護回路の不具合なのか、断続的に音が切れるという謎の故障に手を焼いたその挙句、頭にきて粗大ゴミに出しました。勿体なかったなあ。でもスピーカーケーブルの短絡でなければ、後は中身の問題ですもんねえ。

そう言えばONKYOにも謎の不具合が…
Integra A-DS939。絶対に押してはいけない謎のキルスイッチみたいなのがあって、いくら取説を読んでも復帰の方法が分からない。メーカーの方を自宅に呼んだら呆気なく復元しましたが、すぐ再現。片っ端からスイッチを押しても復帰しないので、諦めてこれも捨てました。今思えば、故障じゃないから売却すれば良かったですかね。そうこうしていたら…会社自体が無くなってしまいました。

それからPioneer。こちらは会社のあり様が大きく変わりましたね。アンプ、CDP、カセットデッキレーザーディスク、ミニディスク。自分で言うのも何ですがパイオニアはかなり好きで社長は俺に感謝状出せってくらい買いました。ですがもう現有機器は壊れたら修理は無理でしょう。同社の製品は経年劣化はありましたが、故障で使えなくなったのはレーザーディスクプレーヤーだけです。大変残念な事で、ため息しか出ません。
どうせならパイオニア三洋電機のオーディオ部門と合併できなかったかなあ。昔、OTTOというブランドがありましてねオットー・パイオニア。略してオッ…いえ何でもないです。

これまで使った製品で、結局、いちばんまともだったのはSANSUIだった気がします。故障で捨てた経験がありませんのでね。惜しい。実に惜しい。やりように依っては日本最強のプレミアムブランドになっていた可能性もありますからねえ。OBの方がメンテナンス会社を作られたんでしたっけ。今となってはその存在が僅かな救いですね。
※ゾノトーンの創業者でいらっしゃる前園俊彦さんはサンスイにいらしたんですね。「前園俊彦物語」には当時の興味深いお話が記載されています。是非ご一読ください。

DENONYAMAHAONKYO、Pioneerといずれ劣らぬ名門をディスってしまい本当に申し訳ないのですが、いずれも当時の収入を考えると決して安い買い物ではなかった訳です。擦り傷やら大怪我やらいろんな不具合に接して何度もアイタタタタ…結果として、機材に大金を払うならよくよく調べてからにしないと酷い目に遭うという「羹に懲りて膾を吹く」式の行動様式が私の身体に染み付いてしまった訳です。

趣味で使う機材に大金を払うならよく調べてから、という自己規制は一種の踏み絵みたいなものだと思いますね。写真機材であれオーディオ機器であれ、思ったとおりの性能を発揮してくれないこともある。最悪なのは壊れて直せないことですが、諦めて「授業料」の支払いが必要なこともある。それを許容できるか出来ないかが「趣味」たり得るかどうかの分岐点だと私は思うのです。

(続きます)