私がニコンを棄てた理由

それは2019年の桜の季節。会津鉄道芦ノ牧温泉駅の出来事でした。

このショットさえ無ければ「ああでも無いこうでも無い」と悪態を吐きつつも、今もニコンを使っていたと思います。ですが私はフィルムカメラ関連製品を除き、ニコンを一式処分しました。具体的にはD5/D850/Z6/Z7Ⅱです。

現地は「ねこが働く駅」として有名な観光スポットでもあります。桜は本当に満開で、私は思いました。ここは天国か・・。ところが。Z6が真正のダメカメラなのか、はたまたZ14-30mm f/4Sが不調なのか。撮影したばかりの写真をモニターすると「モノクロ写真」にしか見えません。
色とは光の反映ですね。日の出から数分後とか、台風の日の夕方なら目に映る世界がモノトーンになるのも判ります。ですが撮影時刻は朝の8時半、天気は薄曇り。目の前で今が盛りと美しく咲き誇る桜花が、何故かニコンZ6を通すとモノクロ写真のように再現されてしまうのです。私は本気で思いました。

「Z6壊れた・・」

私は、ここでパラメータをあれこれ弄っても、すぐに状況を打開するような解を見つけることはできないだろうから、自宅に帰ってからRAWファイルを現像する方がいいと割りきって撮影を続行する事にしました。ニコンが提供しているRAW現像ソフトで、見た通りの光景が再現されれば問題は無い訳ですからね。
ですが、率直に言ってダメでした。この記事ではその顛末を記載します。

・本記事は現像の考え方を大幅に変えて23/1/23に記事を更新しました。
・Z6のRAWファイルは「NX Studio」で現像しています。
・使用したモニターはEIZOの「ColorEdge CS2740」で、カラーマッチングは全てsRGBで行っています。NX Studioに関しては、ソニー/富士を使う身になった今でも本当に素晴らしいと思っています。

①枚目(NikonZ6 + Z14-30mm f/4S 以後同じ)

シャッタースピード優先モード、それ以外の設定は全てカメラ任せで撮影したRAWファイルをニコンの純正ソフト「NX Studio」で開いた状態です。
ヒストグラム」を見るとRGBの各チャネルが、ものの見事に重なりあっています。
私が撮影した写真はモノクロ写真なのでしょうか?広い世の中、激高してカメラを地面に叩きつける方もいると思います。ライカならともかく、ニコンがモノクロ専用デジタルカメラを世に問うても売れる訳がないと私は思うのですが。

 ②枚目

現像開始。
まずは以下の3つのパラメータを変更します。
(1)ピクチャーコントロール:オートから「フラット」に変更。
(2)ホワイトバランス:オートから「晴天/5500K」に変更。
(3)明るさと色の調整の中にある「D-ライティングHS」を50に設定。

ニコンの芸風である「バッキバキの強コントラスト画像」を修正する為に、ピクチャーコントロールをフラットに変更します。フラットはサルベージモードと言っても良いでしょうね。ちなみに絵作りの方向性が似ているニュートラルを選択してもOKです。お好みでどうぞ。
ニコンのオートホワイトバランスは、本当にいつまで経っても使い物になりませんね。仕方ないので手動設定します。※ヒストグラムのRGB表示が僅かに割れて、何となくカラー写真っぽくはなりましたね。
■この話の肝は、アクティブD-ライティングを「標準」に設定したまま、D-ライティングHSを併用することです。ADLが実装される前のカメラ(D1/D2系)の為に、ニコンはわざわざDL-HSを残しているのでしょう。この事は本当に素晴らしいと思います。

フラットは「いよいよのサルベージモード」みたいな感じなのですが、ここからコントラストなり彩度なりを乗せていくのがいちばん手っ取り早く、かつ効果も高いです。そのことに気が付いてから以降は、サルベ-ジが必要な画像ファイルは、ほとんどこのモードで現像をしています。

なお、ピクチャーコントロールの各パラメータ(クイックシャープ、コントラスト、明るさ、彩度、色相)を現像時に弄っても良いのですが、ピクチャーコントロールを選択し直した際にパラメータ設定値は初期化されてしまいます。再設定の手間が掛かるのが面倒なので私は触るのを一切止めました。任意のピクチャーコントロールに固定した後で各パラメータを弄るのは良いのですが、別に弄る必要もないと思います。

③枚目

「明るさと色の調整」の項目を見直して色調を調整します。ここでは
・明るさ+10
コントラスト+50

としています。コントラストを上げると色が付いてきますね。ここの桜は白っぽい品種なので全体の色調をもっと明るくしたいところですが、そうしたらそうしたで空の調子が飛んでしまいます。ここでは仕方なくガンマカーブを弄ることにします。

④枚目

ガンマカーブを弄ります。1.00から1.09に変更。

⑤枚目

・カラーブースターを+25に設定(風景) ※ブースターは控えめに・・
イメージセンサーに付着したゴミの除去。
・コントロールポイントを使い、正面左側の桜の色合いを修正。
※コントロールポイントは可能な限り使わないことにしていますが、仕方ないですね。

⑥枚目

上記⑤を現像出力したものです。もうここまで来るとなんだか幼稚園の宿題の塗り絵かなんかみたいですよ。少なくとも①よりは遥かにマシだとしても。
ここで所感をはっきり言いますが、毎ショット毎ショット、こんなに工数掛けて調製しろとか冗談じゃねえって。ニコンZ6よりスマホのほうがよっぽどマシだろっての。

☆ ☆ ☆

という訳で。

冒頭記載のとおりこのショットが引き金になって、私はニコンからソニーに乗り換えました。正確に言うとZ6に加え、Z7Ⅱを買い増ししたのですが、Z6とZ7Ⅱのミラーレス2台体制では心が踊らない上に撮れる気が全くしなかった。

それがニコンを棄ててしまった理由です。

かと言って今更D5とD850を買い戻す気にもなれませんでした。多くのミラーレス機は軽くかつボディ側手振れ補正機構を搭載していて写真の歩留まりが良いことを身を持って知ったからです。

Z7Ⅱの代替にα7R4、後にα7R5。Z6の代替にα7S3。ついでに勢いでD一桁機の代わりにα1。ソニーの3台構成に加え、ついでに2022年3月にラージフォーマットに手を出しました。

恐るべし富士フィルム。ホームランか三振か。
そんな訳で、それなりに金は掛かりましたけど仕方ないです。

ここで正直に告白すると、ニコンZ7Ⅱもソニーα1も同じ「新次元」という言葉をキャッチコピーとして使っています。
Z7Ⅱはマイナーチェンジ、α1は本物の新次元。余りに情けなく私の中で何かが音を立てて崩れました。嫌々ニコンにしがみついても仕方ないと思ったのです。私にはどうして①のような全面モノトーンの画像が生成されてしまうのか理由がさっぱり分からないのです。

①に関し、NikonZ6の画像処理エンジンが吐き出した絵をつぶさに観察すると「駐車場」の看板や青い屋根の駅舎の色調は問題ないことが解ります。その部分だけに着目すると「なんとなくサルベージできそうだな」という感じが無いこともないです。それはそれとして百歩譲ったとしても、駅舎以外は無惨の一語じゃないですか。

Z6は全体の色調をグレーに再現して絵全体を完全にぶち壊していますが、ニコン技術陣の「趣味」はこんなものなんですか?ニコンに見切りをつけてソニーに乗り換えて、更に富士のラージフォーマットに手を出して判ったことは、結局、写真は
①色再現性
②合焦精度とピント面の解像
③諧調表現
に依存するのですが、ニコンは全部ダメダメじゃないですか。特に色再現性は劣悪の一語で、自分が描き分けることが出来ないものは全てベッタベタのグレーに世界中を再現してしまうのはどうしてなんですか。

本当に、どうしてこうなるのでしょうか?

ニコンには色温度コントラストの自動設定に際しヒストグラムの各チャネルの形状を揃えろ」という設計思想でもあるのでしょうか?
それとも「デモザイク処理のアルゴリズムが滅茶苦茶ヘボい」のでしょうか?

おそらく両方だと思いますが。
ちょっと調べてみたところ、画像処理エンジンを内製しているカメラメーカーは2社しかないそうですね。答えはソニーパナソニック。つまり、半導体製造子会社を持っているテレビ屋さんです。この時私は「そうだろうな」と合点がいきました。はっきり言ってしまうと、ニコンZ6のイメージセンサーソニーのカスタム品だと思うんですが、同じ素性のイメージセンサーを使っているソニーのα7Ⅲでこの風景を撮影すれば、こんな無残な絵を吐き出さないことは確実だからです。

つまり、問題なのはイメージセンサーではなくてエンジンの優劣です。

☆ ☆ ☆

もう一点このショットについて追記しますが、画面左側の桜の樹に影が浮いていない事から解るとおりこの日の天気は薄曇りでした。曇り空の下で写真を撮るとコントラストの低い、冴えない絵になってしまうというのは経験則として解る気はします。
それでも強調しておきたいのはこの日の午前中の写真は「ほぼ全滅」だったという事です。2004年にD2Hを購入してから17年が経ちますがオートホワイトバランスをはじめニコンの画像エンジンはヘボいという認識は変わりません。ですがここまで来るとはっきり言ってニコンの絵作りは「独特」なんじゃなくて「変」なんじゃないの?というのがこの話の結論です。

ニコンの中の人、頼むから一度解説してくれませんか。何でこうなるの?
現像処理にいくら時間を突っ込もうとも、現地で見た光景が100%再現できるのならある意味で問題は無いです。こっちは趣味でやっている事ですから。

D2H以来、私は(と言うかニコン使いは全員)ひたすら現像のテクニックを磨いてきた訳です。ですがニコンはこの期に及んでも「枯れた外注エンジン」を搭載したカメラを売り逃げして「お前はカラーメーター買え、現地で色温度を計測しろ、各ショット毎にいちいちケルビン値を指定して、その結果をモニターして色補正を掛けろ」とでも言うのでしょうか。

以上を無理矢理要約すると。
写真は光線状態>腕>レンズ>カメラで決まるというありきたりの結論になりますでしょうね。花は盛りに、加えて光線状態の良いときに撮るのがいちばんということです。それでも依然として私は「①枚目は無い」と断言します。

ニコンはDfみたいなフィルムカメラもどきの「お笑いのギミック」で冷え切った需要を喚起するよりも、足元の製品を今一度見直したらどうですか?

ニコンの現像処理全体に関する力の入れ方は昔から真面目です。その事は否定しません。富士のRAW現像ソフトなど無いも同然と言うか「何これ?」というシロモノでしたからね。とは言え、もうこうなったらニコンは一度外部に依頼してでも最大の弱点であるカメラ本体のエンジンを刷新すればいいと思いますよ。いっそのことイメージセンサーだけでなく、画像処理エンジンもソニーに外注すればいいじゃないですか。ニコンの吐き出す絵はD2Hの時代から全く進化していません。Z6には金が掛けられず数世代前の枯れたエンジンしか乗っていないんでしょうけどね。それでも一応「Expeed6」じゃないんですか?

42年間連れ添ったニコン様ですが、別れた理由は極めて単純なものでした。
「こんなもの、我慢してまで使う理由がない」

 

さてここからは宿題の答え合わせです。
大枚はたいてニコンからソニー&富士に乗り換えた手前、桜が満開の季節に同じ写真を撮って比較をしない事には始まらないですね。

⑦枚目(FUJIFILM GFX50sⅡ + GF40-100mm F4)

富士は、ニコンとは別の意味で本当に現像に手が掛かりますから人には勧めません。打率を上げたいのならソニーが良いでしょうね。あ、ひょっとしてあなたが場外ホームランが打ちたいのなら、富士GFXを使うと良いですよ。それなら止めません・・。

ニコンはキーデバイスは作れませんし、エンジンも作れません。だったらニコンはいっそのことタムロンの子会社にでもなればいいと思いますよ。

その方が儲かりますよ。絶対に。